不意の出会いに

(美濃市笠神 山中にて)
キツネ

 大矢田神社のもみじ祭りが終わったばかりのころ。
 カメラの練習がてら早朝の参道を歩いていたら、片付け前のたこ焼き屋台のそばに、りっぱなツノを持った一頭の雄ジカがいたのです。
 距離にして約30m。人気がない時間帯とはいえ、太鼓橋の真ん前。まさかこんなところでばったり出会うとは思いません。
 さて、カメラを持っていた僕はどうしたか。
 まがりなりにもイキモノ撮影を趣味にする男、これぞ本懐、好機到来に勇んでレンズをふりかざしたか――答えはNOです。
 僕がまっさきに考えたことは、「向かってきたらどうしよう」でした。それから「ゆっくりあとずさりしたほうがいいか、刺激しないよう動かずにいるべきか」でした。幸い、雄ジカはすぐに逃げていきましたが、こっちも怖くて撮るどころではなかったのです。

 山桜を撮りたくて、笠神の山中に入りかけたところで、反対から歩いてきたキツネと鉢合わせしました。お互いに「なんで?」という感じで、このときもびっくりしましたね。
 キツネはさっと身をひるがえし、藪のなかに入る直前に一度だけ立ち止まって振り返りました。僕のほうも、たまたまkissに250mmをつけていたので、一度だけシャッターが切れました。

 ケニアでのサファリドライブも、相手は野生動物ですが、こっちは安全な車のなかだから、ライオンだろうとバッファローだろうと怖いなんて思ったことがない。
 それが、まったく無防備な状態で会うと、たかだかシカやキツネですら怖い。
 うーん、自分は何か気づきかけているんだけど、まだよくわからん――そんな心境です。